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フラットアイロン・ビル

上の写真は1978年2月、猛吹雪の時に撮ったものである。

5番街の道の真ん中で写真を撮るということはとうてい無理なのだが、吹雪のため走る車などはなく、このように道の中央を歩く人たちを入れて撮影することができた。

フラットアイロン・ビルはマンハッタンの中心を北から南に走る5番街と、真北から真南に走るブロードウエイに挟まれ22丁目と23丁目の間に、5番街と22丁目が直角の、23丁目が頂点となった三角形の土地に建っている三角形のビルである。
1902年に完成、ニューヨーク市で最初の鉄骨建築であり、細微なディテールの外壁デザインは優雅だ。

数々の写真家が撮影したこのビルは、数え切れないほどの傑作を生み出している。

その中でも私が好きなのは、<エドワード・シュタイケン>の<The Flatiron> (1906)と題された作品だ。夕刻、小雨が降っているのか、道は濡れて光り、空気がまだもやっている時に撮影されている。

馬車が数台見えるし、フラットアイロン・ビル完成4年後で、当時この辺りはマンハッタンでホットな場所だったのだろう。

この時シュタイケンは27才、ピカピカの写真家。彼は、ルクセンブルグで生まれ、子供の頃、孤児として米国に移住している。ミルウオーキーでリトグラフ制作者として絵画のような写真を発表していたが、近代写真の提唱者アルフレッド・スティーグリッツの目に止まったのである。

スティーグリッツの名前は一般の方にはなじみは少ないだろうが、画家のジョージア・オキーフの夫である。スティーグリッツは5番街291番地に<291>という画廊を開き、また<Camera Work>という写真雑誌も発刊した。

彼自身も写真を撮ったが、一般に知られるほどの作品は少ない。しかし、写真歴史上偉大な功績を残した人である。

それまでの写真は、撮った後処理を施し、絵画のように仕上げていたのを、写真は撮ったままで修正、書き加えなどはせずに発表すると提唱し、それを実践した写真家、シュタイケン、ポール・ストランド等の作品を<Camera Work>や<291>で紹介した。

私が米国に住み始めた頃は英語もろくにしゃべれないので、友人がアシスタントとして働いていたスタジオに、写真用語などを覚えるため無料でアシスタントのアシスタントをしていた。

そのスタジオは5番街にあり、スティーグリッツの画廊<291>があったビルのすぐ近くだった。もちろん1971年のその時に<291>画廊はなく、何の変哲もないビルになっていた。

<291>画廊、ここに近代写真といわれる作品を作り出した作家達が集まっていたのかと、何度そこに足を止めたことだろう。

16丁目にある自分のアパートから、スタジオには5番街を歩いて通った。その途中にこのフラットアイロン・ビルがあった。いつの日か、自分もこのビルを撮影し作品を作りたいと切に思いながら通っていたものだった。

76年に永住権が取れ、スタジオを5番街の20丁目に持った。フラットアイロン・ビルまで歩いて3分だった。

さまざまな機会にこのビルを撮った。日の出から日没まで10分おきにこのビルを撮ったこともある。しかし、上の雪の作品にはかなわない。

昨年、14年ぶりにニューヨークに行き、このビルと再会した。1階が工事壁で覆われ、そこには銀行の広告がでかでかとあり、観光者としてスナップをするのみであった。

これらの写真資料は廃刊になった、スイスで発行された雑誌<CAMERA>1969年12月号より


エドワード・シュタイケン Edward Steichen
http://www.masters-of-photography.com/S/steichen/steichen_articles.html

アルフレッド・スティーグリッツ
http://www.masters-of-photography.com/S/stieglitz/stieglitz.html


ジョージア・オキーフ Georgia O'Keeffe
http://www.happyshadows.com/okeeffe/

Camera Workに掲載された写真
http://www.leegallery.com/camera.html